長時間透析について | 前田医院

当院では、透析患者さんが元気で長生きすることを患者さんと私たちが協力し実現することを目指しています。十分な透析量確保し、尿毒素の質的量的な除去を行うことによって食事制限をできるだけ緩和し、栄養状態を改善することを目標とした血液透析のスタイルを理念としています。長い透析時間を確保し、心臓にやさしい穏やかな除水を行うことを積極的に推奨しています。

長時間透析って? | 前田医院

長時間透析とは、週18時間以上(週3回であれば1回6時間以上、隔日では1回5.0時間以上)の血液透析のことです。 標準的な血液透析(週3回・1回4時間)と治療法は同じですが、1回あたりの治療時間が長いぶんだけ優れた効果が得られます。透析患者さんが今よりももっと元気になり、より長生きができうる治療法として期待されています。

どんな患者さんに向いているの? | 前田医院
  • 若年者や就労者、体格が大きく食欲旺盛な患者さんに向いています。
  • 血圧管理が難しく、心臓に不安を抱える患者さんに向いています。
  • 高齢者や長期透析患者さん、合併症の多い患者さんに向いています。

 つまり、血液透析を受けているすべての患者さんに向いています。
患者さん側で準備が必要なことは? | 前田医院
  • 腎不全という病気について、「もっと理解しようという姿勢」が必要です。
  • 自分自身の健康を取り戻すために、「しっかりと十分な透析を受けようとする心構え」が必要です。
どのような食事制限が必要? | 前田医院
  • 食事制限という考え方ではなく、「食べた分だけ透析を受ける」という発想の転換が求められます。
  • 「しっかり透析、しっかり食事」の考え方で、透析量に負けないようにバランスのとれた十分量の栄養を摂る事が勧められます。
  • 適度のカリウム制限と塩分制限(水分制限)以外は、同居するご家族とほぼ同じ食事を摂取することが可能です。食べられないものはありません。
この治療を受けるメリットは? | 前田医院
  • 標準的な血液透析に比べてより多くの尿毒素の除去が可能です。
  • かゆみや透析後のだるさなど、たくさんの不都合な症状が改善します。
  • 透析中の血圧はもちろん、日常の血圧もより安定しやすくなります。
  • 貧血の改善が期待できます。
  • 内服薬の減量が可能になります。
  • 今よりももっと元気になり、さらなる社会復帰が可能となります。
長時間透析って? | 前田医院

●透析患者は慢性透析不足!?

 わが国で行われている血液透析治療の時間と頻度は「1回4時間×週3回」がほとんどです。
実はこの形態は、明確な医学的根拠に基づいているわけではなく、経験的に行われているものと言わざるを得ません。合計12時間という透析時間は1週間のわずか7.1%を占めるにすぎず、この程度の治療で健常腎の機能を肩代わりしようとすることは腎機能が廃絶してしまった透析患者にとってはほとんどの場合で不可能です。残念ながら短時間の治療で十分な効果を発揮できる人工腎臓(血液透析)など現在のところは存在しません。

 確かに機器の改良や透析液の清浄化、薬物療法、対症療法の進歩など透析医療を取り巻く環境は日進月歩です。しかし、透析医療そのものはまだまだ発展途上であり、不十分な腎代替療法にすぎないという事実をわれわれ医療従事者はもう一度自覚せねばなりません。

 実際に、ほとんどすべての透析患者は透析不足と言っても過言ではないでしょう。つまり現行の標準的な透析治療を継続している限り、慢性腎臓病(CKD)ステージG5D患者はいつまでたってもステージG5の枠の中から抜け出すことができないのです。CKDステージG5D患者は、多少なりともサイトカインがその黒幕を演じるとされるMIA症候群を呈しています。つまり彼らは慢性的な低栄養(malnutrition)‐易感染性(inflammation)‐動脈硬化(atherosclerosis)という負のスパイラルの中に存在しています。この究極の悪循環を断ち切る術はその場しのぎの対症療法ではなく、まずは十分量の透析療法であると我々は考えています。なぜならばMIA症候群の根底にあるものは、腎機能不全すなわち透析不足の蓄積なのですから。腎不全治療を考えるうえで、「限られた時間や透析量の範疇で厳しい食事療法や内服治療を強いる」といった既存の概念にとらわれず、「食べた分だけ、尿毒素が蓄積した分だけ透析を行う」というコペルニクス的転回があってもよいはずなのです。


●穏やかで、より多くの透析!!

 長時間透析の特徴は、標準透析と比べて透析量を穏やかに増加できることです。1回あたりの透析時間を延長することで、体内に蓄積した尿毒素をより多く除去することができます。また、ゆっくりと時間をかけた透析により体液バランスの補正をより優しく達成することができます。透析患者の愁訴や合併症のほとんどは、慢性的な尿毒素除去不足や体液バランスの破綻に起因しています。せっかく週3回も貴重な時間を割いて血液透析を受けるのであれば、さらに少しばかり1回あたりの治療時間を延長して、より多くの治療効果を引き出すことが望まれます。

 長時間透析によって透析効率が改善されれば、理論のうえでは患者はCKDステージG5からステージG3~4のレベルまでステップアップすることが可能となり、尿毒素のより少ない体内環境を保持することができます。その結果、彼らのQOLやADLの向上が実現され、腎機能障害を原因とするさまざまな不都合をさらに回避できるかもしれません。長時間透析は、透析患者の愁訴や合併症を軽減し、患者の自立や社会復帰の足がかりになるものと期待されています。


●患者の向き・不向き

 長時間透析に患者の向き・不向きはありません。ほとんどすべての透析患者にとって現行の標準透析は治療不足であることから、この治療法は若年患者や高齢患者、透析歴の短い患者や長い患者、合併症の少ない患者や多い患者などすべての透析患者にとってさまざまなメリットがあります。

 多くの患者がすでに抱えている「4時間透析でさえもつらいのに...」という思い込みが、長時間透析を受け入れることに対する大きな障壁となっているものと考えられます。長時間透析の実践には、患者自身が腎不全という病態と自らの体調についてもっと理解し、積極的に治療を受ける姿勢を持つことが必要です。もちろんわれわれ医療従事者が患者を十分にサポートすべき責任を担っていることは言うまでもありません。

 

●患者側の利点・欠点

 ■患者側の利点

 長時間透析により尿毒素の除去量が増加し、除水や体液バランスの補正が穏やかに達成されます。それにより適正なドライウェイトの設定が可能となり、透析中だけでなく日常の血圧も安定しやすくなります。降圧薬やリン吸着薬などの内服薬が減量でき、つらい食事制限も緩和されます。腎性貧血や栄養状態の改善効果についても、これまでに多数の報告がなされています。掻痒や透析後の疲労感、さまざまな不定愁訴も軽減されます。

 ■患者側の欠点
 治療のための拘束時間が長くなってしまうことです。また、1回の透析時間を延長しても週3回の治療のままでは、透析患者にとってもっとも心血管合併症の発症が多いとされる2日空きを避けることはできません。一部の患者においては透析後の低カリウム血症や低リン血症、栄養素の過除去にも注意が必要となります。

   
前田 兼徳
透析ケア 2012年臨時増刊 94-98p 引用
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